「賞与の給与化」に関する考察
こんにちは。
今回は大手企業を中心に近年実施されている「賞与の給与化」について、
クライアント様より実施すべきかどうかの相談が増えてきたので、
現在の状況や実施に伴うメリット・デメリットについてお伝えいたします。
さて、まずは「賞与の給与化」とは何なのかを説明いたします。
年に1~2回(企業や場合によっては3回)、
決まった時期に支給していた賞与に関して、
金額の一部もしくは全額を毎月の給与に組み込む改定のことを指します。
例えば、いままでは
・月給:30万円
・賞与:年に2回、月給×2ヶ月分
という状況だったとします。
※計算しやすくするため、査定結果による賞与の増減やインセンティブ等はないものとします。
この場合の想定年収は、
30万円×12ヶ月+(30万円×2ヶ月)×2回
= 360万円+120万円
= 480万円 となります。
この状況で「賞与の給与化」を行います。
賞与で支給している120万円の全額、
もしくは一部を給与に組み込んでいきます。
〇全額組み込む場合
賞与の120万円を月給に組み込んでいきます。
120万円を12ヶ月で割ると、月10万円となるため、
・月給:40万円
・賞与:なし
となります。
年収は変わらず 40万円×12ヶ月で480万円となります。
〇一部を組み込む場合
賞与の一部を組み込んでいきます。
この場合は金額の調整が少し複雑になります。
120万円の半分を残し、もう半分を給与に組み込んだとします。
120万円の半分の60万円を12ヶ月で割ると、月5万円になるため、
・月給:35万円
・賞与:年に2回、月給×1か月(もしくは年に1回、月給×2カ月)
となります。
年収は、35万円×12ヶ月+35万円×2回=490万円となります。
月給が上がったことで賞与の金額も増え、年収が若干上がります。
そのため年収を増減なく移行する場合には
基本給上乗せ額を調整する必要があります。
※実際には①②どちらのケースも、
社会保険料や税金の金額また残業代の時間給も変わるため、
多少の年収増減は出てきます。
それでは、この「賞与の給与化」に関して、
実施する上でのメリット・デメリットを考えていきましょう。
まずメリットからお伝えします。
企業側の最大のメリットは「採用競争力の向上」です。
(というか、実施する理由は上記しかありません。)
先程の例でいうと、
A 基本給:30万円 賞与:年2回
B 基本給:40万円 賞与:なし
この2つを比べた場合、Bの方が多くの求職者が集まります。
理由は主に以下の2点が考えられます。
・検索条件で残りやすい
→数多くの企業から絞り込むために検索をかける際に、基本給による足切りリスクが減ります。
・基本給は確定、賞与は不確定として捉えがち
→賞与は業績によって、もしくは査定によって変動することが多く、
不確定要素として捉えがちなため、基本給を多くする方がより安定した高収入のイメージを持ちます。
また、従業員側のメリットとしては、
毎月の収入が増え生活が安定するということになります。
次にデメリットです。
企業側のデメリットとしては、
「業績と人件費の連動」が困難になります。
通常、仮に業績が急激に悪化した場合には、
賞与の支給額を削減することにより業績と人件費の連動を図りますが、
基本給は業績が悪化したからと言って大きく減給することはできません。
また残業時間が多い企業の場合、
基本給が上がると残業代の額も上がるため
人件費が大幅に増加する可能性もあります。
次に従業員側のデメリットを考えます。
賞与がなくなる(もしくは減額される)ことによって、
年に数回の楽しみがなくなります。
また日々の活躍によって賞与の金額が変わるような制度だったとしたら、
モチベーションの低下を招く恐れもあります。
さらには、住宅ローンを「ボーナス払いあり」で組んでいる場合には、
支払いが厳しくなる可能性があります。
まとめ
〇企業のメリット
・採用競争力の強化
〇従業員のメリット
・日々の収入の安定
〇企業のデメリット
・業績と人件費のミスマッチ
・残業代の増額
〇従業員のデメリット
・モチベーション低下の可能性
・賞与ありきの計画の見直しが必要
現状では大手のうちの一部が実施している「賞与の給与化」ですが、
現時点では中小企業が取り組むべき施策ではないかと思います。
やはり企業側のデメリットである業績と人件費のミスマッチは、
中小企業において非常に大きなリスクになります。
この先、大手の大半が実施することがあり、
「月給は高く、賞与は少ない(ない)」という状況が一般的になる兆候が見えた際に、
実施を検討すると良いかと思います。
今回は以上となります。ありがとうございました。
後藤