インボイス制度導入への準備はできていますか?(後半)
こんにちは。
前回に続いてインボイス制度に関する内容となります。
今回はインボイス制度の導入による影響とその対策について
お伝えいたします。
このインボイス制度、様々なところで問題点の指摘が相次いでおりますが、
特に建築業に関しては非常に大きな影響を受けることが予測されます。
なぜ建設業が影響を受けるのかというと、
ひとり親方など年商1000万円以下の職人さんが多く関わる事業だからです。
このインボイス制度は、
登場人物を年商1000万円以上の事業者のみに限定すると、
特に大きな問題点は見当たりません。
事務作業が若干煩雑になることが予測される程度です。
それどころか、
・郵送や印刷などのコスト削減
・紙での保管が不要となり、保管の効率や安全性の向上
・発送業務の効率化
など、大きなメリットがあります。
しかし、
年商1000万円以下の事業者やそれらの事業者に発注する企業からすると、
多くのデメリットも危惧しなければなりません。
具体的な問題点としては、建築コストがさらに上がる可能性があります。
また職人不足に拍車がかかる可能性もあります。
つまり今現在、住宅業界が抱えている
・着工戸数の減少
・部資材の価格高騰
・職人不足
という3つ問題点のうち、2つに大きく関わりのある制度改革なのです。
なぜ価格高騰や職人不足に繋がるのか、
その理由は後程お伝えいたしますが、
とにかく決して軽く考えてはなりません。
しっかりと内容を理解した上で対策を練りましょう。
さて、前回は消費税納税の仕組みを説明させていただきました。
重要なポイントのみをダイジェストでまとめると、
≪インボイス制度導入前≫
・年商1000万円以上の事業者は課税事業者となる
・年商1000万円以下の事業者は免税事業者となる
・課税事業者には仕入れ税額控除が適応される
・免税事業者の場合、消費税の支払い義務がなく利益が増える(益税)
≪インボイス制度導入後≫
・適格請求書以外の請求書では、仕入れ税額控除ができない
・適格請求書は適格請求書発行事業者登録をしている事業者のみが発行可能
・免税事業者に発注した場合には仕入れ税額控除ができない
さて、このことから起こり得る問題を
▪職人(年商1000万円以下の事業者)
▪発注者(年商1000万円以上の事業者)
の2つに分けて考えていきましょう。
まずは職人サイドに立って考えます。
インボイス制度が導入された場合、
2つの選択肢が与えられます。
「適格請求書発行事業者登録をするかどうか」です。
登録をした場合、「益税」がごっそり無くなります。
いままでは支払う必要がなかった消費税の支払い義務が生じます。
単純に収入が10%減るということになります。
それは困ると思い、登録をしない選択を取った場合には
どのようなことが予測されるでしょうか?
この場合には、適格請求書を発行することができないため、
発注者が仕入れ税額控除を受けることができなくなります。
そうなると発注者の利益が減ってしまうため、
依頼先を別の登録事業者へ変更する可能性があります。
つまり仕事を打ち切られるリスクがあるのです。
また、仕事は継続するにしても、
利益が減ってしまう分、
もう少し価格を下げて欲しいと交渉されることも考えられます。
このように年商1000万円以下の事業者にとっては、
どちらの選択をしたとしても、
現状よりはマイナスになってしまいます。
ひとり親方のように年商1000万円以下の事業者にとっては、
必ずマイナスになるような制度のため、
若者の職人離れに拍車がかかり、さらなる職人不足が懸念されます。
そして次に発注者目線で見てみましょう。
まず、適格請求書発行事業者登録を行うかどうかに関しては、
登録しないメリットはありません。
仕入れ税額控除を受けるためにも、必ず登録しましょう。
注意点として、2023年10月1日のインボイス制度開始に間に合わせるためには、
2023年3月までに税務署へ申請書を提出しなければなりません。
忘れずに申請するようにしましょう。
もし様子見や申請忘れ等で間に合わなかったとしても安心してください。
6年間の経過措置があるため、仕入れ税額控除を全く受けられないわけではありません。
仮に免税事業者と取引する場合でも(適格請求書でない場合でも)
インボイス制度がスタートしてから3年間は80%、
残りの3年間は50%の控除は可能となります。
とはいえ、利益が減ることに変わりはありませんので、
期日までの登録が賢明と思われます。
そして次に、
免税事業者と付き合い続けるかどうか、
という問題を考えなければなりません。
この問題に関しては、一概に正解を出すことはできません。
仕入れ税額控除を受けるために、適格請求書発行登録者に登録して欲しいところですが、
上記で記載した通り、免税事業者であり続けたいという気持ちも分かります。
それぞれの免税事業者の技術力等の力量、
そして希少価値などから判断せざるを得ません。
また、いままでの発注先が適格請求書発行事業者に登録した場合にも、
考えておかなければならないことがあります。
発注先からすると、いままでと同じ仕事をしても
消費税の分だけ収入が減ることになります。
その分の補填として価格の引き上げを要求される可能性があります。
そしてその要求に応えることができないと、
引き受けてもらえなくなる(他の会社の仕事を優先する)可能性に繋がります。
これらのことから、
上記で述べた「建築コストの上昇」「職人不足」の問題に
繋がることが懸念されるのです。
ただでさえ厳しい建築業界に対して、
さらに向かい風となるような制度をなぜ導入するのか、
と疑問に思われる方もいるかもしれません。
しかし、この制度の導入自体は自然なことと言えます。
なぜなら、世界中の経済国の多くがこの制度の必要性を感じ、
すでに取り入れているからです。
OECD(経済協力開発機構)の中でインボイス制度を導入していない国は、
現在では日本とアメリカのみとなり、決して特別な制度でないことが分かります。
※OECDはEU加盟国を中心に38国が加盟しております。
必然の制度とも言えるので、
状況が変わってもすぐさま適応することのできる力が求められてると言えます。
実力のある職人の確保や充分な交渉ができるだけの
企業としての魅力や受注力を高めていくことで、
変化への適応力を持つことが解決策になることでしょう。
また状況が変わり次第最新の情報をお届けいたします。
後藤